それでも君と、はじめての恋を
「今年の行事は全部参加してもらうんだから、もう驚くのやめてよね」
フフンと得意げに口の端を上げると、「渉強いわー」なんて笑いながら茶化される。
「いやぁ、渉もすっかり彼女気取りだね〜」
「気取りって何!?」
正真正銘100%彼女なんですけど!と思っていると、純があたしの肩に腕を回して顔を近付けてきた。
「で? どこまで進んだの、渉ちゃんと桃井くんは〜」
ニヤニヤと楽しげに笑う純に危険を察知した時には遅くて、周りに座るクラスメイトも目を輝かせる。
「聞きたーい!」
「どうなの!? 桃井寶ってどうなの!?」
「やっぱ俺様なの!?」
「いや、ちょっと……っ!」
「ドSっぽーい!」と盛り上がるクラスメイトに吹き出した純を殴ってもいいかな。いいよね。
「聞かせろ渉っ!」
おおう……どうしようか、この心臓にナイフを突き付けられてるような状況。
どこまで進んだのって、それ聞いちゃう?
モモがドSだとか、本気でそう思う?
仮にも恋愛経験豊富だと勘違いされてたあたしが、未だ手を繋いだだけで浮かれてる上に、どっちかと言えばモモより主導権握ってると、か……。
「あー! ほら純っ、お米噴いてる! あとよろしく!」
「逃げんな渉ーっ!」
そんな叫びを背中に、あたしは猛ダッシュでモモと葵がいる炊事場へと逃げた。
他の班もいる中で、辺りにはカレーの匂いが立ちこめている。
すでにルーを投入してのんびりかき混ぜてるモモと、使用した包丁やまな板を片付けていた葵。
あたしはもちろん、葵のもとへ一直線。
「……そんなに走ってどうしたの」
隣に現われたあたしに驚きながら、葵はこれからカレーをよそう為に洗った皿を拭いていた。
「純たちから逃げてきた……っ」
軽く息を乱していると葵は背後を振り向くこともなく「ああ」と呟いて、あたしが逃げてきた理由に大方予想をつけたみたい。
特に聞いてくることもなく、葵は拭き終わった皿を近くにあった木製テーブルへ置いた。