それでも君と、はじめての恋を


「……あたし、7組の矢吹 渉っていうんだ」


そう言ったあたしを見上げた桃井くんに、笑いかける。


「男みたいな名前でしょ。さんずいに、歩くで、渉」

「……桃井 寶」


うん。知ってるよ。

だけど、もっと知りたい。


他に、どんな表情するの? 趣味とかある? どんな音楽聞く? 携帯は何色? 放課後何してる? 家族は何人? 動物好き?


聞きたいことを色々飲み込んで、2千円の代わりに買ったお詫びの品を桃井くんの机の横に掛けた。


「あたし、桃井くんと仲良くなりたいな」


ピンクブラウンの隙間から見える瞳に微笑むと、桃井くんは今日1番の驚いた表情を見せた。


それだけなのに、どうしてこんなに嬉しくなるんだろう。


「またね、桃井くん」


それだけ言って、あたしは弾む気持ちを押さえながら1組を出る。もう、刺さるような視線は気にならなかった。


桃井くんと、仲良くなりたい。


それだけの気持ちが今のあたしにとって、まるで宝物のように感じた。
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