それでも君と、はじめての恋を


「味見しに来たっ!」


まるで自慢するようにスプーンを顔の横に掲げると、モモはスプーンとあたしの顔を交互に見て鍋の前から少し離れた。


「甘口と中辛混ぜたんだよね?」

「うん」

「葵が甘すぎるの嫌だって」


スプーンに掬ったルーから熱そうな湯気が立ち上り、息を吹きかけてから口の中へ入れる。


瞬間目を見開くとモモまで僅かに驚いた顔をして、あたしは口を片手で押さえた。


「おいしい!」


何これすごい! いたって普通のカレーだけど美味しい! 学食のカレーより3倍くらい美味しい!


「甘くない?」

「うん大丈夫! 葵もちょうどいいと思う!」

「なら良かった」


モモはレードルから手を離して火を消すと、鍋に蓋をする。たったそれだけの動作だけど、何となく手慣れてるなと感じた。


「モモってカレー作れるの? ていうか料理自体が得意?」

「や、別に」

「でも凄い美味しかったよ。家でも作るでしょ」

「……まあ、うん」


ショックなのか驚きなのか目を見張ったあたしに、モモは「たまに」と言い訳じみた言葉を付け足す。


あたし家で料理なんて全くしないんだけど……!


「うち誰も料理しないから」


本当にそれだけだと言うようなモモを凄いなと思う。

あたしなんてお母さんがいない日はコンビニとかファミレスで済ませたり、葵の家でご馳走になったりするのに。


「お母さんは? 料理しないの?」

「あー……全然ダメ」


顔を歪ませたモモに、そんなに料理が不得意なのかなと不安になる。


もちろん先々モモの家にお邪魔した時のことを考えて、というのは黙っておこう。
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