それでも君と、はじめての恋を
▽テンション・リダクション
しとしと降る雨はいつもけだるそうな雲を連れてくる。
風が吹けば雨は向きを変えるのに、雲は流されても流されても空を灰色で埋め尽くすことをやめなかった。
今日も相変わらず、雨模様。
ポツポツと教室の窓に辿り着く雨は、すぐに流れ落ちてしまう。
まるで小さな川みたいだなと思いながら、あたしが見ていたのは窓に映るモモだった。
首を押さえて机に肘をつくモモはジッと教壇を見たり、板書した文字を消したり、欠伸をしてうたた寝をしたり。
真面目なんだか、真面目じゃないんだか。ゆるいな、モモは。
たまに窓ばかり見てるあたしに視線をよこすけど、その度向かい側の校舎に目を逸らすあたしは、なかなか盗み見がうまいと思う。
……今月末から定期考査なのに、授業中に彼氏見てニヤニヤしてる場合じゃないんだけどさ。
「はいじゃあ今日はここまで。日直、お願いします」
チャイムが鳴ると先生は号令を促して教室を出て行く。
またろくに参加しないまま、授業が終わってしまった。
「はーっ! ヤッバイな俺、英語全然分かんない。どうしよー桃井ー」
斜め後ろからの声に振り向けば、森くんが前の席に座るモモの両肩を揺らしている。
「――何? 大丈夫? 何で?」
1文字も板書をとらなかったノートと開いていただけの教科書を机の中にしまっていると、森くんの不思議そうな声。
何やら視線を感じて再び振り返れば、モモがあたしを指差しながら森くんを見ていた。
……ん?
「あー……ははっ! 渉ちゃんも分かってないから大丈夫ってこと? そうなの?」
「1回もノートとってない」
「ちょっとモモ!? 何その、渉の方がヤバイからみたいな言い方! 失礼じゃない!?」
「ドンマイだよ、渉」
「葵までヒドイ!」
窓際後ろの席で騒ぎながら、これは本当に勉強しなきゃなと頭の隅で思う。
林間学校のあった5月も終わり、高校総体や中間試験のある6月は雨ばかりの日が続いているけれど、今日もあたしの日常は平和だ。