それでも君と、はじめての恋を


「はぁ~。絡まれたとかダサすぎ。もうこの話終わりね、別に何ともないから」


ほとんど投げやりにしか聞こえないのは、純のプライドが少なからず傷付いてるからなのか。


ということは、本当に絡まれて殴られたのかな。

いつもヘラヘラ笑って何でもかわす純が、ここまで不機嫌を露わにするのは珍しい。


高一の春に『彼氏持ちの女の子に手を出すのはもうやめる』って、ボコボコにされても笑ってたもんなぁ……。


「……純、さっき女の子探してたよ。今日遊ぶ約束してるんだけどって」


あたしの席に腰掛けてた純は缶コーヒーを口に持っていきながら、宙を見ていた。


「あ~……今日誰だったかなぁ」


その言葉にあたしと葵は目を合わせて、きっとお互い察したと思う。


女の子が大好きで毎日複数のデートをこなす純は、ごく稀にめんどくさがる時があった。


いつもすぐ返ってくる連絡が途絶えると、女の子は決まってあたしか葵に声を掛けて来るわけだけど、あまり意味がない。


やっと繋がったと思ったら、純は今のように決まって「誰だったかな」と口にするんだ。


余程殴られたのがこたえてるのかも。

何か、かわいそうになってきた……。


「デート乗り気じゃないなら、代わりに言っとくけど……純もちゃんと連絡返しなよ」


あたしがそう言うと、葵も溜め息をつきながら箸を置いた。


「あたしらアンタの世話係じゃないんだから、ちゃんとしてよね。あと顔はどうでもいいけど、手の傷は手当てすれば? 見てて痛い」


葵の言葉で初めて気付く。殴られた時に転倒でもしたのか、純の手には地面で擦ったような傷があった。


純はあたしと葵の顔を交互に見ると暫くどこかへ視線を逸らして、再び正面を見た時は口の端を上げていた。


「あ~あ。葵も渉も彼氏持ちじゃなかったら、狙うんだけどなぁ」

「「……」」


やっぱりコイツ、手を出した女の子の彼氏に殴られたんじゃないの?
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