それでも君と、はじめての恋を
「そんな顔しなくたって冗談じゃん。彼氏に殴られるのはもうこりごりです~」
「やっぱアンタ彼氏持ちの女の子に……!」
「だから絡まれただけだって! 理不尽な暴力受けた俺ってば超かわいそうでしょ? ね~、桃井」
「……手当てしてきたら」
無愛想なモモに言われて、純は「え~」と言いながらも笑う。
「ほんじゃあ、どっちか付き添ってっ」
「ね? ね?」と葵とあたしを見る純の瞳と言ったら……そんな可愛こぶって女の子をたぶらかしてるのか、と思わずにはいられない。
「ひとりで行け」
葵にバッサリ言い捨てられた純お得意の「え~っ!」は、もういつも聞いてるものに変わっていた。
「保健医おばさんじゃんかぁ~……ヤダ無理ヤダ怖い」
駄々っ子か! ていうか失礼だな!
「はー……。渉はお弁当食べてて。あたし連れてくから」
「あ、うん。ありがと」
まだ昼食にありつけていなかったあたしは純が席を立ったことでやっと座ることができた。すると先に歩き出した葵に、純は満足そうな笑顔で付いていく。
「葵大好き」
「渉と桃井にもちゃんとお礼言え。心配かけたんだから」
「そこはぁ、あたしも好き~って言うところだと思うんですけどぉ」
バシンッ!と無言で純の頭を叩いた葵と、「何すんのー!?」と頭を押さえる純が廊下に出たのを見てから、お弁当の蓋を開けた。
「今日も平和だと思ってたんだけどなー」
隣の席に座るモモに体の正面を向けながら、膝上にお弁当を置く。背中を向けた窓からは、相変わらず雨のぶつかる音。
4月に葵も不機嫌だった日があったけど、やっぱりいつも一緒にいる友達の様子が変わると心臓に悪い。
それに比べてあたしはいつも呑気だな。なんて考えが一瞬頭をよぎって、そうでもないなと思い直した。
「まあ、こんな日もあるよね」
フォークに刺したからあげを口に運ぶと、頬杖をついていたモモはあたし見て薄い唇を開く。