それでも君と、はじめての恋を
……訂正。
「だから、来て」
ちょっと恥ずかしそう、かな。
「……そういうことだから」
自分の鞄を持って言うと、モモは逃げるように歩き出す。
「何、結局メールになんて書いてあったの?」
葵の問い掛けに答える前に鞄を持って席を立ったあたしは、きっと満面の笑顔だ。
「秘密っ!」
「てか待ってたの俺らなのにぃ、何で桃井が先帰るの~?」
そんな純の言葉を耳にしながらも、気恥しさでいっぱいの背中を追い掛けた。
――『ところでいつになったら渉ちゃん連れてきてくれるの?
息子の彼女に会わせてもらえない不憫なお母さんの気持ち考えたことある? ないよね。そろそろ怒るからね。
理由なんて何でもいいからさっさと我が家に招きなさいよ。
今度こそ湊にもダメなお兄ちゃんって言われても知らないからね。』
「モモッ!」
がしっと両腕を掴んで、勢い余ってほぼ後ろから抱き付く様な感じになってしまったけど、なんとかモモの足を止めることには成功。
「来月家に遊びに行ってもいいっ?」
軽く息切れするあたしに振り返ったモモは、うっすら目元に微笑みを帯びる。
「母親、うるさいよ」
「でも何か気が合いそう!」
「……ああ、うん」
合いそう。と呟くように言ったモモから離れて、右手を差し出した。そうすればモモは左手を重ねて、歩き出す。
「……なんか、今から緊張してきた」
「するだけ無駄だと思うけど」
そんな風に言うモモのお母さんは、どんな人なんだろう。湊ちゃんは、どんな声で笑うんだろう。
想像すると楽しみで、だけどやっぱり緊張もあって。多分あたしは目前に迫った試験よりも気合いを入れてモモの家に行くだろうな、と思った。
どうか、『ずっと息子と仲良くしてね』なんて言われる彼女でいられますように。
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