それでも君と、はじめての恋を


「で、電車の中で走っちゃダメだよね……はは」


周りの乗客がクスクス笑うのを誤魔化すように情けなく笑うと、桃井くんは笑う乗客を見遣る。同時にピタリと止まる笑い。


……え、何……。


再びあたしを見た桃井くんは、特にいつもと変わらない。相変わらず無表情で、何を考えてるか分からない。けど……。


「ドジだな」


目尻を下げたと思ったら、ちょっとだけ口角を上げた。


初めて見た桃井くんの笑った顔に、焦りにも似た感情が急速に込み上げる。


ポカンとしているうちに桃井くんはまた無表情に戻ってしまった。


……うまく、言葉が出ない。

打ち鳴る鼓動が、体を熱くする。


汗まで出るんじゃないかってくらい、体中が熱い。
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