それでも君と、はじめての恋を


「ずるい」


ヨロリとふらついた足のまま壁に寄り掛かっていると部屋からモモが出てきて、発した第一声は二度三度と続く。


「ずるい……何今の、ずるい」

「……何、が……」


驚いた顔をしていたモモは何を言われているのか理解したらしく、言葉を濁した。


「あー……今のは……」

「言われなくても分かってるもん」


フイと顔を逸らして、そのまま背を向けたあたしはモモの部屋へ歩き出す。微かに名前を呼ばれた気がしたけど、空耳ということにして無視してしまった。


あぁあああ……大人げない……! でも、だけど。


「渉」


モモの部屋へ入った途端に掴まれた腕に、眉を寄せて振り返る。


「謝らなくていいよ」


あたしよりも頭ひとつ分高いモモを見上げて自然と出た言葉は本心だった。


本心だったけど、今にも謝りそうだったモモはあたしが"ずるい"と言う理由を分かってるのかと思うと、何とも言えない気持ちになった。


「別に怒ってないよ」


本当に怒っていないのに、モモの手から逃れようとした力はより強い力に負けてしまう。


「……モモ?」

「……」


モモが腕を離してくれなくて、理由が分からないと思いながらもう一度体を後ろへ引いてみても意味はなかった。


「ちょ、何? 怒ってないって!」


腕ごと引き寄せるとモモまで付いてきて、縮まった距離に一歩後ずさってもまた縮む。その繰り返し。


――何で! まさかモモが怒ってるの? 何で!?


「か、家族なんだし! 昔からの習慣とかそんなとこでしょっ?」

「……」

「そりゃ、ずるいとは思ったけど……!」


無言で見つめてくるモモの威圧感にやっぱり怒ってるのかと焦って、開かない距離と緩い圧迫感が余計に頭を混乱させた。


ずるいとは思ったけど、湊ちゃんに、ましてや犬モモにまで嫉妬なんてものは抱かない。


でも、だけど。


あたしは一度もされてないのに、って。そのくらいは思ってしまう。


思ったって、いいでしょう?
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