それでも君と、はじめての恋を
「ダメだった?」
「――!」
顔を上げると赤くなって冷や汗まで出てそうなモモが目に映ったけど、それは予想の範囲内だった。
「ダ、メじゃない、けど……」
「けど、何さ」
「……」
困るんでしょ。困るけど、嫌じゃないんでしょ。
だったら抱き締め返してくれればいいのに。少し痛いくらいに、その腕の中に閉じ込めてくれればいいのに。
そしたら好きだという想いを込めて、あたしは今よりもっとモモを抱き締めるよ。
言葉がいらないんだから、モモにはぴったりだと思うんだけどな。
ジッと見上げていると、目の前を横切った魚を追いかけるようにスイ~と目を逸らすモモ。
「……帰るんでしょ」
またそうやって逃げるんだもんなぁ……。
「帰りますけどぉー」
ちょっと不満を載せて言ってみるとモモはあたしを見下ろして「けど、何」なんて、さっきのあたしと全く同じ問い掛けをする。
もうちょっとこのままでいたいけど……今日はもういっか。
ふぅ、と哀愁漂う溜め息をついてから最後にもう一度だけ、自分の顔を押し付けるくらいモモに抱き付いた。
明日は日曜日だけど遊ぶ約束はしてないから、月曜日まで逢えない分。
これもさすがに言えないなと思っていると、我慢の限界が来たのか頭にモモの手が触れたのが分かった。
ひやりとするモモの手が額に当てられて、案の定引き剥がされるように後ろへ押される。
せっかちだな、と思いながら見上げると、あたしを引き剥がしたはずのモモがなぜか近付いてきていた。
「――……」
額に感じた柔らかな感触。
視界いっぱいに拡がる、浮き出たモモの首筋や鎖骨。
いつもよりずっと香るアリュールオム。
それら全てが離れてやっと、あたしは両腕に力を込めるのをやめた。