それでも君と、はじめての恋を
「う、嬉しかった」
「……」
「じゃあ、帰るね!」
結局モモの言いつけを守らなかったから、顔も見れずにそそくさと玄関に置いてあったパンプスに足を滑り込ませる。
嬉しかったのは、本当。
言わなくていいことだったかもしれないけど、モモに少しでも嫌だったかなって、しくじったかもって、思ってほしくなかったから。
だから、ねえ、モモ。
「じゃっ! お邪魔しましたっ!」
「ん……や、送る……」
「大丈夫! ほんと大丈夫! ていうかこのまま葵の家に行こうかなって!」
言いながらドアを開けたあたしは早々と外へ出ると、空気が新鮮な気がして、ほんのちょっとだけ落ち着いた。
「……気を付けて」
「うん、ありがとう。ここで大丈夫っ」
開けたばかりのドアを閉め始めたあたしに、モモは玄関で立ち止まっているだけ。
「……じゃあ、行くね。湊ちゃんとお母さんにもよろしく」
「ん」
ひらりと軽く手を振ったモモに微笑んで、ドアを閉める為に押した。
けれどあと10センチほどで閉まるという頃に、あたしはその隙間から顔を覗かせる。
「リベンジも楽しみにしてる」
大きく目を見開いたモモを黙って見つめていたのは、きっと数秒。
「……言うな、バカ」
少し俯きがちに眉を寄せ睨んでくるモモに、満面の笑顔を見せてからドアを閉めた。
弾むように階段を降りて従業員用の勝手口から外へ出れば、内に籠り続けていた熱は夜空へ吐き出される。
行きと帰りの道は同じなのに、足取りの軽さも抱く気持ちも全く違った。
夏休みが近付く夜、初めてモモの家にお邪魔した帰り道。
コンビニで求人情報誌を2冊もらって葵の家へ直行した。
もちろん、のろけという言葉がぴったりなお土産話も抱きながら。
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