それでも君と、はじめての恋を
ガヤガヤと騒がしい廊下でほうきを持ちながら、あたしは足元にある塵を掃くこともせず葵を見つめていた。
窓と向かい合う葵は周りの雑音を遮断するように、耳元にあてた携帯の送話口を手で覆っている。
何を話しているのかは分からなかったけれど、時折頷いていた葵が携帯を閉じて、笑顔で振り返れば全て分かった。
「今日来てくださいって」
「ぎゃー! やったーっ!」
両手を拡げて葵に抱き付くと、「七尋にも報告しないと」という言葉に同調する。
「――モモッ!」
「多分ベランダでしょ」
葵から離れて慌ただしく教室へ入り、廊下の清掃も忘れてベランダへ一直線。
木目からコンクリートの床へ踏み入れば、空はどこまでも高く青かった。
青からピンクへ視線を移すと、ベランダに座り込んでいたモモは突然現れたあたしを見上げている。
「バイト受かった!」
「……」
「葵も一緒に合格!」
同じ目線にしゃがみ込んだあたしの眼はきっとキラキラしてて、モモはそんなあたしをジッと見てから、流れるように微笑んだ。
「良かったね」
「うんっ!」
「嬉しそう」
「うんっ! 嬉しい! 今日簡単な説明とかするから来れるかって言われてね、とりあえず行くことにしたっ」
「……バイト先ってぇ、どこだっけ~?」
ニコニコと笑うあたしの視界にはモモしかいなかったはずなのに、モモの横からココア色が現れる。
「あれ、純いたんだ」
「ずっとここに桃井といましたぁ~」
そういえば最近モモって、森くんよりも純といるような、いないような。
「……モモが純といるのはいいけど、純がモモといるのはヤダ」
「うぅわ。何それぇ。俺が桃井に引っ付いてるみたいな言い方やめてくれる~? 俺ら仲良いもん、ね~桃井」
「普通」
「え~」と不満そうにする純だけど、モモの普通は好きな部類に入ると思う。
「ていうかぁ、そういう話じゃなくてバイト先どこだっけ?っていう話をしてるんだけど~」
ふたりのやりとりを見ていたあたしは純の言葉に「ああ」と今気付いた風な相槌を打った。