それでも君と、はじめての恋を
「そろそろ安部ちゃん来る……ほら、来た」
そう教えてくれた森くんの声にかぶさるように「矢吹ぃ!」と怒りを露わにした安部ちゃんの声が響いて、慌てて立ち上がる。
「優木も! お前ら廊下の掃除終わったのか!?」
ベランダまでやってきた安部ちゃんの言葉にあたしと葵は顔を見合わせて、笑う。
「終わってねぇのかよ! お前らはそんなんだから……」
「ハイハイ、すみません」
安部ちゃんの文句を葵が軽く受け流している間にモモと純も立ち上がり、何気なくモモを見上げると目が合った。
「今日先に帰っとく?」
……わ。先に帰る、じゃなくて、ちゃんと聞いてくれた。
「ううん。でも、葵も一緒に帰ってもいい?」
「うん」
……無表情なのに冷たく聞こえないのがモモの不思議なところ。優しくて、あったかくて、モモの隣は居心地がいい。
「3分待ってやるからさっさと終わらせろっ! 矢吹も!」
「はーい」
安部ちゃんに怒られながらもあたしは教室に戻って、葵と一緒に廊下へ向かった。
――バイト、頑張ろう。
今月はあと2週間もないけど密かに節約して余裕がある。来月にはバイト代が出るから、少しでも足しになればいいな。
「……ねぇ葵。バイト、楽しいかなぁ」
「さぁ。何、今更緊張してきた?」
「うーん」
緊張っていうよりはドキドキして、楽しいといいなあって思うだけ。
「モモといっぱい遊びたいから頑張るっ!」
持っていたほうきを天井に向けると「惚気てんじゃねぇぞ矢吹!」なんて安部ちゃんは地獄耳を発揮して、クラスメイトまで笑う。
モモは大声で何を言ってるんだと少し恥ずかしそうに眉を寄せてたけど、あたしから目を逸らすことはなかった。