それでも君と、はじめての恋を
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学校から2駅先、地元より2駅前というなかなか楽な場所にできたばかりのレストランが、あたしと葵のバイト先。
午前10時から午後11時半まで営業していて、ひとまず学校のある日は午後5時から10時まで入ることになった。
夏休みに入れば大体6時間勤務で、週4日くらいはバイトする予定。
「時給800円×6時間×4だから……えぇっと……」
「1万9千200円でしょ」
「えっ!? 更に×4だと凄くない!?」
ふたりきりなのをいいことに事務所でバイト代の計算を口にするあたしに、葵はサラリと暗算してみせる。
「7万6千800円? まあ今月は残り少ないし研修期間だから時給も下がるけど、3万は確実に入るね」
すごい! お小遣いで生活してたあたしからすると大金! 交通費も出るし、まだバイト代上がるよね!?
「もっと早くバイトするんだった……!」
「なんだかんだ面倒くさがってたもんね。渉に誘われなかったらあたしもやってなかったかも」
ソファーに座りながら、葵は少し弛んだ紺色のハイソックスを上へ伸ばす。
「でも葵は七尋くんに合わせられるようにって、バイトできなかっただけじゃん?」
「そうだけど。七尋、シフトも休みも教えてくれるし。あたしがバイトしてても大丈夫だったなーって、今更気付いた」
「遅いよ」
「お互いね」
ふたりで笑いながら、ふと壁にかかる時計に目をやると午後7時半を回っていた。
「今日さ、上がる前に写メ撮って! モモに送るんだーっ」
「いいけど、変な制服じゃなくて良かったよね」
ええ、ほんとに。
白いダブル・ブレストブラウスに黒い膝丈上のタイトスカート。スカートより少し短いタブリエは黒のギンガムチェック柄で、シンプルな制服は少し味気ない。
だけどオレンジのラバリエールはリボンっぽくて、普段学校でネクタイを付けてるから新鮮で気に入った。
そのことを葵に伝えようとすると、ガチャリと事務所のドアが開いて無意識に背筋が伸びる。
「ごめんね、お待たせ」
入ってきたのはもちろん店長で、30代半ばの男性にしてはずいぶん覇気のない疲れた顔をしてるな、というのが第一印象だった。