それでも君と、はじめての恋を
「キッチンスタッフ一部だけど、休憩入ったから来てもらっていいかな。ホールスタッフと違ってそんなに接点はないと思うんだけど、一応紹介しておきたいから。ごめんね」
そしてちょっと、店長なのに腰が低い。
了承したあたしと葵は店長の後について行って、事務所とドア1枚隔てた先にあるスタッフルームへ向かう。
学校が終わってすぐにここへ来たから、ちょうど中番と遅番が入れ換わる時で10人ほどと顔を合わせた。
厳しそうな人はいたけどみんな良い人そうで、何とかやっていけそうだねと葵と話していたけど、まだ顔合わせをしてない人に会うのは少し緊張する。
「お疲れさま。……あれ、久坂くんだけ?」
「お疲れっす。吉川なら飲み物買いに行きましたよ」
「そっか。ちょっと今いいかな。話してた新しいバイトの子たちなんだけど」
「あー、はいはい! どーぞ」
中の様子がわからなかったスタッフルームは、店長が横へずれたことで視界いっぱいに拡がった。
――わ。
白いコック着を着た男の人がソファーから立ち上がって、その背の高さに驚く。
「初めまして! キッチンスタッフの久坂です」
大きな口を開けて笑顔を向けてきた久坂(くさか)さんに、多分葵も一瞬面食らったと思う。
今まで顔を合わせたスタッフの誰よりも明るくて、まるで緊張感がなかったから。
「……優木です。今日からよろしくお願いします」
「えっと、矢吹です! よろしくお願いしますっ」
「優木さんに、矢吹さんね! よろしくっ」
ずいぶん人懐こい笑顔を見せるんだなぁ……モモより背が高い気がする。
「ごめん久坂くんっ! 吉川くん戻って来たら、ふたりに紹介してもらってもいいかな」
「了解です」
「じゃあ優木さんと矢吹さん、ちょっとここにいて。またあとで来るからっ」
「はい」
葵が返事をすると、店長は慌ただしく事務所へ戻っていく。どうやら店舗携帯に電話がかかってきたみたいだった。