それでも君と、はじめての恋を
「ふたりとも高2だっけ? あ、座って座って」
久坂さんはソファーに座りながら、テーブルを挟んで向かい合うもうひとつのソファーを指差す。
「ていうか俺メシ食ってるけど気にしないでね」
見た感じドリアだけど、夕食の時間なんだろうな。
そんなことを思いながらソファーに座ると、久坂さんはスプーンを持って再びあたし達に笑顔を向けた。
「ふたりともバイト未経験だって聞いてたけど、ラッキーだな。ここ楽だよ」
「……そうなんですか?」
「うん。最初は覚えることあって大変だろうけど、スタッフみんないい奴ばっかだから。慣れちゃえばいつの間にかバイト終了~って感じ? シフトも融通きくしな」
それは、特別忙しくもなく暇なわけでもないけど安定してるって感じなのかな? 何か予想外。でもシフトが融通きくのは有難い。
「それに店長がアレだから」
ニヤッとする久坂さんに思考が止まって、顔を見合わせたあたしと葵は思い当たる節があった為すぐにふき出した。
「やっぱもう分かる? 悪い人じゃないからみんな好いてるんだけど、腰低すぎてつけ入り放題なんだよ」
「分かります。葵とも話してましたからっ」
お腹を押さえながら言うと、「もはやネタだからね」と久坂さんも笑った。
緩くパーマがあてられた薄茶の髪は、久坂さんが笑うたび微かに揺れる。
「ところでアオイって優木さんの名前だよな? 矢吹さんは?」
「あ、渉です。さんずいに歩くで渉」
「へー、いいな。女の子で男っぽい名前ってカッコイイ」
「え、そうですか……?」
照れるんですけど。
なんて思っていると、厨房に繋がるドアから「ただいまー」と言いながら男の子が入ってきた。
「って、アレ? 新顔ー……あ、新しいバイトちゃんか!」
足を止めてビシッと指差してくる人はどうやら久坂さんと同じキッチンスタッフのようで、あたしと葵は立ち上がって挨拶と自己紹介をする。
「どーもどーも。吉川だからヨッシーって呼んで! ちなみに高3だから1個上? よろしくなーっ」
これまた人懐っこいスタッフが現れたなと眺めていると、吉川もといヨッシーはソファーに座るなり久坂さんに絡み出した。