それでも君と、はじめての恋を
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すっかり夏服が馴染んだ生徒達は終業式が行われた蒸し暑い体育館から教室へ戻り、すでに夏休みが始まった気分で浮足立っていた。
もちろん3組も例外ではなく、安部ちゃんの淡々とした夏休みの注意事項を聞いてすぐに解散した。
「ね~どっか遊び行こ~」
ひとりだけ席が離れてる純がやってくると、葵が怪訝そうに眉を寄せる。
「女の子と約束してないの? めずらしい」
「明日から予定ビッシリだからね~。今日は葵の為に空けといたよっ」
ウィンクでもするのかというくらい可愛こぶる純は無視されて、葵はあたしに向き直った。
「渉も今日シフト入ってないよね。どうする?」
「俺ぇ、お腹空いた。メシ食べながら決め……」
「それはダメッ!」
純の言葉に反応して大きな声を出したあたしに、何事だとモモまで驚いた顔をする。
「ダメって何でぇ~? ダイエット? 今更~」
「違うし今更って何!?」
あたし太った!?
プッと笑う純へ代わりに蹴りを入れてくれた葵に感謝しつつ、チラリとモモの顔を窺った。だけど目が合ってすぐに、あたしの方から逸らしてしまう。
「ダメなのは分かったけど、何、お腹空いてないの? めずらしい」
そんな人を食い意地張ってる人みたいに言わなくても……。
「そうじゃなくて……」
ていうか、つい反応してダメとか言っちゃって……毎回毎回、何で自分で自分の首絞めちゃうんだろう。
「何? 言ってごらん渉、ほら早く。ん?」
「近いです葵さん」
そして顔がやけに楽しそうですネ。
モモの視線をビシバシ感じながら、どうせ逃げられないんだからと気持ちを奮い立たせて、机の横に引っ掛けていたカバンを取り上げる。
……おかしい。本当はモモを照れさせる予定だったのに、何で真っ先にあたしが照れてるの。
「あ」
「あっれぇ~?」
葵と純の反応にグッと息を呑んで、取り出したものをモモに差し出した。