それでも君と、はじめての恋を


「……今更だけど、渉の分って……」

「……え? あ、モモの分だけで精一杯だったから……」


仮にあったとしても食べられそうにない。

なんだか胸がいっぱいで、喉を通りそうにない。


だけど、モモが最後のかぼちゃコロッケを半分に割って、片方をあたしに差し出してくるから。優しさが嬉しくて、食べた。


ジッと見つめてきていたモモはあたしが飲み込んだのを確認すると、瞳を柔く細める。


「うまい?」


何ソレ。何でそんな顔してそんなこと聞くの。


まるであたしが、ずっと緊張してたのがバレてるみたいじゃん。


でも美味しい。普通に美味しい……そんな程度に思ってたけど、佐野くんが言ってた通りだ。


「絶品だよーっ!」


ぎょっとしたモモの顔は、あたしの目にうずたかく盛り上がる涙のせいでボヤけてしまう。


「っもう、まずかったらどうしようって……! ミニトマト潰れてるし、コロッケ焦げたし、味付け濃かったかもとか……微妙な反応されたらどうしようって、モモ料理上手だからすっごい不安で! ああもうホント良かったぁああ!」


緊張の糸が切れたのか、パタッと頬に落ちた涙を拭いながら、あたしは胸に溜まっていた言葉を一気に吐き出した。


良かった。ほんとに、心の底からホッとした。


モモは正直だけど優しいから、口に合わなくても美味しいって言ってくれるだろうなって思ってた。


だけど結構顔に出るから、きっとあたしはすぐに気付いて、不味いならマズイって言ってよって怒ればいいと思ってた。


そしたら作り直せばいい。リベンジすればいい。


だって喜んでほしかったから。

嬉しく思ってるくれるかなって。照れたりしてくれるかなって、思ってたんだよ。



「うー……久々にこんな緊張したぁ……」


おさまってきた涙のあとを拭って、ふとモモを見た時だった。


「くっ……ははっ!」


モモが声を出して、笑った。


「ふ、……っごめん、なんでもない」


そう言いながら口を手の甲で隠したモモだけど、わずかに見える口元は緩んだまま。
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