それでも君と、はじめての恋を
……笑った。
あのモモが、ものすごく久しぶりに声を出して。しかも、無邪気な笑顔で……。
めずらしいレベルじゃない。レアすぎるって言っても足りない。夢だ。幻。あたしの妄想が見せた幻覚かもしれない。
そんなことを考えたって体は素直で、つま先から、指先から、熱が顔まで這い上がった。
「……っ、なんなの、もう……」
うろたえるあたしの声はだいぶ小さかったはずなのに、顔を覗いてきたモモは微笑む。
……ほんとはあたしが、モモの赤面をずっと見ていたかったのに。
少しだけ見れたけど、あたしが赤くなる予定はなかった。
「……お弁当出した時、なんで赤くなったの?」
「……」
まだわずかに頬へ熱をこめたまま意地の悪い質問をぶつけると、案の定モモは目を逸らして残ってるお弁当に箸をつける。
「……俺いつも作る側だから」
「……」
「嬉しかった、だけ」
さすがにまた赤くはならなかったけど、気恥ずかしそうに言うモモに胸がきゅっと締め付けられた。
「……また作ってきてもいい?」
「うん」
「逆にモモが作ってきてくれてもいいんだよ」
「フッ……!」
何で笑うの。
顔を背けても体が微妙に揺れてるんだってば。
「モモが作ったお弁当、あたしも食べたい」
ムッとしながら言えば、モモは咳払いをしてあたしに視線をよこす。
「あー……うん、いいよ」
本当かなって思ったけど優しい表情でしてくれた約束は嬉しくて、モモに体の半分を寄り掛からせた。
ついでに頭も肩に預けさせてもらって、一瞬だけ体が強張ったモモにこっそり笑う。
真っ白な雲が浮く真っ青な空を見上げていると、夏風が肌を撫でた。
「……楽しみ」
モモ作のお弁当も、夏休みも。
まどろんだ意識の中で「俺も」と、モモの声が聞こえた気がした。
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