それでも君と、はじめての恋を
▽驟雨の喧騒
太陽がじりじりと照りつける8月初旬。感じる風は肌にまとわりつく様な蒸し暑さを含んでいた。
あたしとモモはお互いバイト中心の生活を送って、それぞれ充実した時間を過ごせていたと思う。
逢えなくて寂しいと思う時はあったけれど、バイトを頑張る理由があるから逢えた時の嬉しさは大きかった。
夏休みに入って約2週間。
久々にモモと顔を合わせたのは、午後4時を迎えた大鳥居の前だった。
「――湊」
小さな背中が駆け出すと、牽制するように妹の名前を呼ぶモモの声。
湊ちゃんはツインテールを揺らしてすぐに振り返ると、柔らかそうな頬を膨らませる。
「だいじょうぶだよぉ。迷子になんかならないもん」
白に淡いピンクの花が咲く浴衣を着ている湊ちゃんは自信ありげに言って、どこかの出店を指差した。
「わたあめ食べたい!」
「……金魚は?」
「だって取れないんだもん。おにいちゃん、へたくそ」
「ふはっ!」
思わず噴き出すと、ジロリと目力の強いモモに見られて慌てて口を閉じた。
――大きな神社で行われる夏祭り。
夏休み前から行きたいと騒いでいたあたしはバイトを早番にしてもらって、モモと湊ちゃんを誘っていた。
今はまさに、金魚すくいをやってたところなんだけど……湊ちゃんが言うようにモモはへたくそで、1匹も取れていない状況。
「湊ちゃん。金魚、本当にいいの?」
「うん。もういい」
ふるふると首を左右に振る湊ちゃんにモモは何とも言えない顔をして、あたしは笑いながら出店を開いていたおじさんに空っぽの器を返した。
「行こうモモ。――よっし湊ちゃん! どのわたあめがいいっ?」
「あれ! ピンクのやつがいい!」
湊ちゃんに近付くと、小さな手があたしの手を握り締める。引っ張られながら出店へ向かうと、後を追ってきたモモは500円という値段を見て「高……」と呟いた。