それでも君と、はじめての恋を


橙色の柔らかな提灯の光。時たまカラカラと鳴る風車。どこか懐かしい盆踊り。


この時期だから見られる情景は幼心を思い起こさせるけれど、隣にいる人がいつもと変わっただけでまた違った気持ちになる。


男女関係なく友達としか来たことのなかった夏祭り。


今年はモモと! 彼氏と! 来たからね!


「渉ちゃんも食べる?」


そして可愛い湊ちゃんも一緒という、なんて素敵な1日。


「ありがとーっ」


差し出されたわたあめを受け取って口に含むと、湊ちゃんは再び袋に入ったわたあめを千切ってモモに渡す。


「おにいちゃんもどーぞっ」

「……どーも」


こんなものが500円もするのかと言いたげだったモモは諦めたように少し微笑んで、ふわふわとした形に変わったザラメを食べた。


似合わないな、なんて思っているとモモは眉を寄せて口を開く。


「……イチゴ?」

「みたいだね。あたしイチゴ味のわたあめなんて初めて食べた」

「おいしーっ」


そう言ってハシャぐ湊ちゃんは袋に顔を突っ込む勢いで食べ進めるから、見てるだけで顔がほころんでしまった。


「モモは何か食べたいものないの?」


聞くと、首を伸ばしてあたりの出店を確認するモモは、グレーに黒い縦縞の入った浴衣がよく似合う。


あたしの強い希望で着てきてくれたんだけど思った通りかっこよくて、待ち合わせ場所だった大鳥居の前で湊ちゃんと話すモモを見つけた時は鼻血が出るかと思った。


もちろんあたしも紺色の生地に紫から白にグラデーションがかかった紫陽花柄の浴衣を着てる。


めずらしく落ち着いた色合いにしたのは、モモの反応を見たかったから。


まあ、『似合う』の一言で終了だったけどネ!


「――あれ」

「ん? どれ?」


食べたいものが見つかったのか、モモが指差した先を見ると「どんどん焼き」と情報が付け足される。
< 389 / 490 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop