それでも君と、はじめての恋を
▽負けても今度
「えぇ〜っ。嘘だぁ〜!」
冷気が漂う廊下側から逃げるように、ベランダ側にある暖房機の前にしゃがみ込むあたしと葵と、疑わしげに眉を寄せる純。
あたしはそんな純に、眉をつり上げる。
「嘘じゃないってば!」
「だって、あの桃井でしょ!? 笑ったなんて、ぜぇ~ったい嘘!」
昨日の電車であったことをふたりに話すと、葵も純も驚いていた。特に純なんて、何回嘘って言うんだってくらい疑ってくる。
「てか、喋れることにビビったし」
「いや、普通に喋れるでしょ!」
葵の発言に真面目に返すけど、あたしもビックリしたんだよね。最初は、だけど。
もうあたしの中で、桃井くんが喋ることは当たり前になってる。
ほんの数日前までは噂ばかりしか聞いたことのない、関係もなければ関わってはいけないとまで思っていたのに。