それでも君と、はじめての恋を
「もうひとつの景品は何だったの?」
「……、……」
モモが袋の中から取り出したのは見たことがあるような、ないような……戦隊物のおもちゃだった。
「ふはっ! 何それ変身できそう……っ! してみて!」
「……無理でしょ」
夢がないな。へーんしん!って言ってみればいいのに。鉄仮面だから子供は逃げそうだけど。
そんなことを思っていると、あたしとモモに手を繋がれていた湊ちゃんの歩調が遅くなってきたことに気付く。
「湊ちゃん? どしたの、疲れた?」
「んー……」
あ、眠くなってきたのかな。
立ち止まって繋いでいた手を離すと、次いでモモが慣れた手つきで湊ちゃんを抱き上げた。
「大丈夫? 袋持とうか?」
「平気。湊のだけ入れてもらえれば」
「ん、待ってね」
湊ちゃんが手に持っていた景品をソッと取り、モモが持つ袋に入れると再びあたし達は歩き出す。
「ハシャいだから疲れたのかな。予定よりちょっと遅くなっちゃったもんね」
「……湊が迷子になるから」
「ハハッ! 次は気をつけようね」
笑いながら何気なく言った言葉にモモは無言で見つめてきて、あれ?と思ったあとすぐに微笑みが返ってきた。
もうあたしにとって、モモの微笑みはさほどめずらしくないけれど、やっぱりまだ心がざわつく。
胸の奥のどこかに、モモだけに反応する何かがあるみたい、なんて。
「……犬モモと散歩したい」
「あー……だね」
若干声に笑いが含まれていた訳は聞かない代わりに、モモの浴衣をちょっとだけ掴んだ。
「……」
「……」
「……無理しなくていいのに」
「……うん」
うん、って。湊ちゃんを抱き抱えるのに、片腕だけじゃつらいでしょ?
そう、本当に思うのに。繋がれた手を離せないのは、大きすぎる気持ちのせい。
特に何を話すわけでもなく、かといって嫌な沈黙でもなく、黙々と駅までの道のりを歩いた。
前を歩く人の背中を見たり、アスファルトに視線を落としたり。どこからか聞こえたチリン、という風鈴の音に顔を上げたり。
――今日は、楽しい1日だった。