それでも君と、はじめての恋を




「はー……」


自宅の最寄り駅に着いたあたしは空を見上げながら、溜め息。雨足は嘘のように遠のき、湿った空気だけを残していた。


やっぱり通り雨だったのかな。


カラン、と下駄を揺らして駅から我が家へ向かう。宿題どうしようとか、登校日をサボる人は誰かなとか、そんなことを考えて、くるくると巾着を回した。


――あ。葵、まだ帰ってきてないんだ。


地元が同じ葵の家は、あたしの家から徒歩5分ほどの場所にある。部屋の位置も知ってるから、電気が点いてるかついてないかで在宅中かそうでないかを判別できた。


久々に七尋くんと遊ぶって言ってたもんなぁ。今日の夏祭りには行ったのかな。


「……」

色々考えながら歩いていると、明日会った時に聞けばいいのに葵と話したくなってきた。


どうせ明日は登校日だし、どっちかの家に泊まるとか――……あ、ダメか。もしかしたら葵、七尋くんの家に泊まるかも。


まあ一応誘うだけ誘ってみよう、と携帯を取り出す前に巾着の中で着信ランプが光る。


不思議に思って携帯を開けば、葵から2件着信履歴が残っていた。


なんてシンクロなの葵! さすが!


そんな感動を覚えながら電話が掛かってきた時間を見ると、20分前と18分前。連続で掛かってきても取れなかった着信は、ちょうど電車に乗っている時だ。


自宅はすぐそこだけれど、ボタンを操作して葵に発信したことを確認したあたしは、携帯を耳に当てて顔を上げた。


「――……あれ?」


視界に入った人影。それはまさに我が家の前に立っていて、無意識に足が動く。


「葵っ!?」


駆け出すと同時に顔を上げた人影はやっぱり葵で、あたしの姿を確認すると微笑んだような気がした。


「どうしたの!? 今電話かけ直そうと――……って、え!? ずぶ濡れじゃん!」

「帰り道に急に降ってきたんだよ」

「いやそれは分かるけど! 濡れたまま外で待ってなくても……あたしんち入ってれば良かったじゃん!」


我が家を見上げても電気は点いてるし、葵なら喜んで受け入れられるというのに。
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