それでも君と、はじめての恋を
▽背中合わせのどつきあい
いつもならあたしがサボるのに、逆だ。
「ダルすぎ……」
夏休みに制服を身に纏って通学路を歩くあたしは、ボソッと不満を口にする。
周りには学校へ向かう生徒がうじゃうじゃいて、慣れているはずなのに今日に限ってうっとうしく感じていた。
正直、登校日なんてどうでもいいという心境なんだけど、葵が行けというから……葵はひとりになりたいのかもしれないと思って部屋に残してきた。
……最悪だ。中間未提出で終わる宿題も、楽しみだった登校日も、朝から高すぎる気温も、晴れない気分も、何もかもが最悪。
『浮気してたんだ』
あの、七尋くんが? 嘘でしょう?
そう笑えたら良かった。勘違いだと、思い過ごしだと、言えたなら良かった。
大丈夫だよ、仲直りしなよって言えたら、どれだけ良かったか。
――バンッ!と音が出るほど乱暴に閉めた下駄箱の扉を見て、今日何回目か分からない溜め息。
あたしが怒っても仕方ない。……仕方なくはない、けど。怒りばかりが湧いて、怒る以外にどうすればいいのか分からない。
「渉」
上靴を履いてゆらりと振り返れば、あたしを見つめるふたつの瞳と目が合った。
「……モモ」
「……はよ」
「おはよー……」
あ、笑えなかった。
ぐにぐにと両手で頬を持ち上げていると、上靴に履き替えたモモが不思議そうにあたしを見下ろす。
けれどそんな視線を遮断するように足を進めたあたしは、モモが隣に並んでも何も言わなかった。
ああ何かもうやる気が……遥か彼方の向こうに……。
「渉おはよーっ!」
「はよー」
教室に辿り着くと、挨拶もそこそこに自分の席へ着く。
……森くんはまだ来てない、と。
「はぁ……」
机に肘をついて顔を覆ったあたしは、昨晩のことを思い返していた。