それでも君と、はじめての恋を
「まあ……また?って、疑ってはいたんだよね。いくらなんでも多すぎっていうか、バカにしてんの?って思ってて」
いつものこととまでは言えないけれど、4月に旅行をドタキャンしてからというもの、七尋くんはドタキャンが多くなった気がする。
気がするだけで、言われれば確かに多いかな?というくらいで……あたしはそこまで気にしていなかった。
当日も1、2回あったけれど、数日前に無理になったと連絡が入ることが多かったような……。
だけどそれすらも、今更な気がする。
「それで? 今日、どうしてたの?」
「……アポ無しで七尋の家に行った」
下瞼をぽんぽんと叩いていた葵はその手を止めて、ジッと鏡を見つめる。あたしの呼吸が一瞬止まったのは、驚いたからだった。
「……しょーもないプライド捨てたら一発だったよ」
そう、だから驚いた。葵は連絡もなしに、誰かの家に行くような子じゃない。それが実家住みの七尋くんの家なら、尚更。
浮気されていたと知った今日でさえ、あたしの家に来る前に電話を入れた。
「夕方頃に行って。弟……森が、出て。七尋はいなくて、だから、待たせてもらってもいい?って聞いたんだ」
森くん家にいたんだ。確か、七尋くんとは別に仲良くないって言ってたな。だから葵も、1年生の時は森くんの顔をぼんやり知っている程度だった。
「……ドタキャンの理由は?」
「バイト。森に、兄貴いるかって電話して貰ったけど……シフト通り休みだった。誰も七尋にシフト代わってなんて、頼んでなかったんだよ」
そう話す葵が笑わなくなって、胸が抉られるように痛んだ。
だって、そこまでだったら何とかなったかもしれない。急遽シフトを代わってほしいと頼まれたのは嘘なんだって、気付いただけなら……。
誤魔化してでもいいから、浮気なんて気付かせてほしくなかったと思うあたしは、どうなんだろう。
葵が詰め寄ったとしても、七尋くんが誤魔化せば、こんなことにはなってなかったかもしれない。