それでも君と、はじめての恋を
だけど。
『七尋が、半年前から……』
葵はそう言った。半年前、2月頃から浮気されていたんだと知ってしまうようなことが、七尋くんの家で待っていた葵に起こったってことでしょう?
嘘をつかれていたと知ったあとも七尋くんを待っていた葵の不安なんてきっと、あたしの頭じゃ想像しきれない。
「夜の……6時くらい?」
ドク、ドク、と心臓が嫌な緊張を纏って拍動を繰り返す。
「誰かが帰ってきた音がして、七尋と女の声がして……あ、2階の森の部屋で待たせてもらってたんだけど」
「うん……」
「部屋から出て途中まで階段降りたらさ、見たことあるよーな女と、玄関でイチャついてるわけよ」
「……まじで?」
「ホントに。キスまでしてんの。あたしに気付かないで……2~3回? で、ふたりで玄関に上がってやっと階段に立つあたしに気付くっていう、ね……」
徐々に視線を落として俯いてしまった葵に、ろくな言葉が出てこない。
「やっぱあたし……アポ無しで家に来るような奴じゃなかったんだろうね。七尋、すごい驚いた顔して、え?とか言うんだよ。……バレるとか、仮に疑われたとしても、暴こうと行動しない女だって思われてたんだなー……って、何か、冷静に分析しちゃうし」
「……七尋くんがそう言ったの?」
「言ってないけど、そうじゃん。驚いたってことは、そういうことでしょ? ……バカにしてんだよ。人のことナメて、いざバレたら超テンパッて、あたしの後ろにいた森にキレるし……意味分かんない」
ふるふると顔を2回左右に振った葵は、苦い顔をして笑った。
だけどその仕草があたしにはまだ混乱しているように見えて、息が詰まる。
一緒にいるだけなら、と。まだ否定にすがるあたしの願いはすでに打ち砕かれていた。