それでも君と、はじめての恋を
バカじゃないよ。
そう思うのに言ってあげられないあたしは、強く拳を握った。
「なんでだろう……」
なんでなんて、葵が1番よく分かってるくせに。
好きでいいじゃん。好きなら、好きで、悪いことなんか何もないよ。
――言ってあげられない。
浮かんだ言葉が泡になって溶けてしまう。それなのに消えることはなくて、むしろ重みを増して、ズシリと胸の奥を圧迫し続けた。
「七尋はきっと、違うのに」
「……」
「ちょっと前までは笑いあってたのに……なんでかな」
「……葵」
……笑わないで。そんな悲しそうに、笑わないで。
無理も、我慢も、背伸びも、しなくたっていいのに。大声出して泣いたっていいのに。もっといっぱい、激しくてもいいから、感情を表に出していいのに。
そんなことはしない葵が、葵らしすぎて、あたしが苦しい。
「七尋の性格上、出来なそうなのに……なんで、浮気なんか……」
フッ、と可笑しそうに笑った葵に腰を上げて、隣に座った。
顔も視線も体の正面全てを葵に向けても、きっと涙で目が曇って、あたしの顔なんか見えてないだろう。それでも目を逸らさずに、悲愴な顔つきに変わった葵を見つめた。
「あたしが七尋のこと、知ってる気でいただけ?」
「……そんなことないよ」
「何も、知らなかった。……渉……あたし、どうすればいい……?」
葵に抱き付いたのは、そうせずにはいられなかったから。そうすることしか、出来なかったから。
声を押し殺すように忍び泣く葵を、強い子だと思う。
だけど普通の、彼氏を一途に想っていたひとりの女の子で。だからこそ七尋くんが許せなくて、憤りばかり覚えていた。
「……大丈夫だよ葵。あたしも一緒に、いくらでも考えるから。また明日話そう?」
ギュッと強くあたしの服を掴む葵の背中を撫でて、「……うん」と返事を聞いてから離れた。そのままベッドを貸して、葵が寝付くまでそばにいた。
近付き過ぎず、遠過ぎず、気配を感じるか、感じないかの距離で。目に溜まった涙が、枕を濡らさなくなるまで。