それでも君と、はじめての恋を
「まさか謝ってもこないなんて……」
「遠回しに仲直りしたいんじゃない?」
ソファーに深くもたれ掛かると、久坂さんがそんなことを言う。
「まさか。あたしが怒ってる理由も分かってなさそうだし……。喧嘩したとも思ってませんよ、きっと」
だから普通にメールしてくるんだ。悪いことをしたなんて微塵も思ってないだろうし、逆に何をそんなに怒ってるんだとか思ってそう。
そもそも何で七尋くんの浮気を黙っていたのか、なんて。ふたりの問題だと言ったモモの言葉や態度で分かりきっているけれど。
「……男の子って冷たいですよね」
「バッカだなー渉。女がネチネチしすぎなんだって」
「バカお前! そういうこと女の子目の前にして言うなよ!」
目の前じゃなかったら言うんですか久坂さん……。
ヨッシーの背中を叩いた久坂さんは、「まあほら、アレだよ」と気を使ってるのが丸見えだ。
「女の子はちょっとロマンチックっていうか」
「そういうの夢見がちって言うんすよー。女は男に求め過ぎ!」
グサッと胸にナイフが突き刺さったような気がするのは、思い当たる節がそれなりにあったから。
「ほら図星っすよ」なんて言ってケラケラ笑うヨッシーに、久坂さんが呆れたような顔をする。
「とりあえずさ、詳しく分かってない俺が言うのもなんだけど、そんな難しい顔しなくてもなるようになるって」
「人の意見を聞くことは大事だと思うけどねー」
「ああもういいからお前は黙れ! ややこしくなるだろっ」
「久坂さんは優男すぎるんすよ!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐふたりに溜め息をついて、床に視線を落とす。
……七尋くんが浮気してたことは、純が先に気付いたんだろうな。
何でモモだけに教えて、どういう経緯で黙ってようと決めたのかは知らないけど、あたしは冷たいと思った。
モモはまだ葵と出逢ってそんなに経っていないけど、それでも仲良くしてきたのに。純なんて高校に入ってからずっと葵とあたしといたのに。
『黙ってたのは、ムカつくけどね。でも何か……うまく言えない感じの腹立たしさっていうか』
これかな。黙っていたことには、確かに腹が立って。だけど黙っていたという事実よりも、何も話してくれなかったふたりに腹が立っているのかもしれない。
手の中にある携帯をジッと見ながら考えてみたけれど、結局返信することなくソファーに置いてしまった。