それでも君と、はじめての恋を
……信頼関係とか、そんな大袈裟なものじゃなくても。
黙っていたということは、どうでもよかったんだって、ほっとけばいいと思われてたんじゃないかって。多分、心のどこかで感じたから、あたしは怒ったのかもしれない。
だけど、モモや純が自分の言い分は間違っていないというような態度であったのと同じように、あたしだってそう思ってる。
少し感情的になりすぎだったと反省はしてるけど、間違ったことを言ったつもりはなかった。
「まーどうせくだんねぇことだろ? さらっと謝れば済む話じゃん」
「くだらないって何!? ていうか向こうが謝ってくるまであたし謝らないからっ」
「うわぁ……女ってなんでこう、喧嘩になると可愛げなくなるんすかねー」
「……お前はそういうの受け流して余計怒らすタイプだろ」
「みんなー」
ガチャリと事務所のドアが開いて、見れば店長が顔を出していた。
「話してるとこゴメンね。そろそろ休憩終わりです」
「はーい」
そう声を揃えて言うと、相変わらず腰の低い店長は「後半もよろしくね」とドアの向こう側に消えた。
……あと3時間半くらいか。
壁に掛かった時計を見上げながら、ひとつに括っていた髪を結び直して気合いを入れ直す。
「あー……でもやる気出ないーっ」
大袈裟にソファーへ倒れ込むと、久坂さんが明るい声で笑った。
「じゃあバイト終わったあと、気晴らしにみんなで飯でも食べに行く?」
少し汚れたサロンを腰に巻き直す久坂さんは白い歯を見せて、それもいいかなと思う。
「和食がいいです」
「あー俺も和食がいいっすわ。ここ洋食店だからなー。賄いも飽きてきたし」
そう言うヨッシーの賄いはいつもパスタだから、そりゃ飽きるに決まってる。
「じゃーとりあえず和食で決まりな。渉ちゃんはホールスタッフに聞いてみて。キッチンスタッフは俺が声かけるから」
「了解でっす」
「はーっ! あと3時間ちょい頑張りますかーっ」
両手を高く掲げて立ち上がったヨッシーはタイムカードを押しに行き、あたしと久坂さんも後に続いた。
ヒラヒラと手を振って厨房に戻っていく久坂さんとヨッシーはいい人で、ちょっと荒んでいた気持ちが楽になる。
ソファーに横たわったままの携帯は再び振動することなく、沈黙を保っていた。