それでも君と、はじめての恋を


「……待機してるから」

『待機?』

「葵が七尋くんと逢った後に、いつでも連絡取れるように。なんならすぐに逢えるように、あたし家で待機してる」


どうなるか分からないし、もしかしたら誰かに逢うような心境じゃないかもしれないけど、もし葵があたしを必要とするなら、僅かでも待たせたくない。


連絡が来たらすぐに反応出来るように。呼ばれたらすぐに飛んで行けるように。


「万全体制で待ってるから、頑張って」


頑張れ、なんて。使う場面を間違えてるのかもしれない。だけど葵は戦いに行くのだと感じるから、それ以外の言葉は浮かばなかった。


「……ごめん、変なこと言ったかも」

『ははっ! 何で謝んのよ』

「え、だって」

『嬉しいよ。ありがと、渉』


声が柔らかくなった葵の言葉に、照れくさいというか、何とも言えない気持ちになる。ベッドの上で体育座りをしながら、ピンクのマニュキアが剥がれた爪を触った。


「……どういたしまして」

『調子にのるな』


何でそうなるんだと思いつつも、笑いながら言った葵にあたしもこっそり口の端を上げた。


「逢う日決まったら教えてね」

『うん分かった。――じゃ、またね。宿題ちゃんとしなよ』

「うわぁ……はい、やります……。またね」


最後の最後までケラケラ笑う葵との電話を終えて、暫く携帯の画面を眺めてからベッドに身を倒す。ぼすん、という音はまるで、体から力が抜けた音のようだった。


それでも足りなかったのか、あたしの口からは「ハァ……」と短い息が漏れる。


今週中、か。
早くても今週中に、葵は何かしらの答えを出すのかもしれないと思うと、軽くなっていたはずの気がまた重くなってきた。


心配と、緊張と、不安と。色々な感情がどこまでも上乗せされていく。
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