それでも君と、はじめての恋を
▽アセチルサリチル
夏休みの思い出は?と聞かれたら、バイト三昧でしたと答える自信がある。楽しかった?と聞かれたら、もちろん楽しかったと笑ってやるんだ。
「何やってんの?」
蒸し暑い体育館で行われた始業式を終えて、教室への帰り道。モモと一切話さないあたしを不審に思った葵に問い質され、事情を話すと口をつぐませる一言。
結局あれからモモに連絡することはなく、それは向こうも同じだった。
「ていうか、あたしのせいじゃん」
「違うよ、何言ってんの。葵のせいじゃない」
きっかけではあったけど、意見の食い違いが起きた結果が、今の状況。葵のせいとは思わない。
「……じゃあ、さっさと仲直りしなよ」
「~っあたしのことはいいから! 葵の方は? 連絡取ってるんでしょ?」
「……取ってない」
「は!? 何でっ」
教室に入る前に驚きから足を止めると葵は苦笑するだけで、あたしの頭には疑問符が浮かんだ。
七尋くんと逢ったあと葵はすぐうちに来て話してくれたけれど、特に大きな変化はなかった。
浮気したのは気の迷い。葵のことは好き。許してほしい。そんな言葉を並べた七尋くんを、葵は許せない……と言うより、信じ切れない感じだった。
それでも一度逢ってからは、ちょくちょく連絡を取っていたのに。
「……なんか、返信する気になれなくて」
教室に入ることなく、廊下に設置されたロッカーに寄り掛かりながら、葵はぽつりと言葉を落とした。
自分のネクタイを見る葵の隣へ移動して、あたしもロッカーに寄り掛かる。
「いつから?」
「先週から。1回しか返してない」
「でも七尋くんからは連絡来る感じ?」
「まあ、うん。今何してる?とか、明日時間ある?とか」
「……前も言ったけど、七尋くん許してほしいんじゃないかな。葵のこと好きだって言ったんでしょ? 仲直りしたいんじゃない?」
七尋くんの浮気が発覚してから、もう3週間近くなる。急かすようなことはしないけれど、葵の煮え切らない態度に些か不安が募っていた。