それでも君と、はじめての恋を
「ああ、組んでるバンドの? すごいですね」
「俺の学校でもやるけど、それは部活で組んでる奴らだから。すげー嬉しい!」
両拳を握って嬉しくて堪らないという笑顔を見せるヨッシーに、久坂さんはクスクスと笑っていた。
「俺の大学でもファン多いしな。こっちとしても有難いよ」
「でっしょー? 久坂さん分かってるわ! ていうか渉と葵も大学祭見に来いよっ。 俺らのボーカルほんとすげえから!」
テンションの高いヨッシーはよっぽど楽しみなんだろうな、と思いつつ葵と目を合わせる。
「まあ、考えとくよ」
「大学とか今1番近寄りたくない場所ですけどね」
サラリと葵が言うと、事情を知っている久坂さんは苦笑して、ヨッシーは声を出して笑った。
「葵の元彼とは違う大学なんだからいいじゃんかよ! なんなら俺のバンドメンバー紹介してやろうか?」
「どういう流れで紹介って話になるんですか。ていうか今はそういう気分じゃないんで遠慮しときます」
「はーあ。気分じゃねえって言ってる奴に限って長い間フリーになっちゃうんだよな。出逢いなんてホイホイ出来るもんじゃねーのに、若いんだからもっとがっつけばいいんだよ」
やれやれ、と言いたげに首を振るヨッシーだけど、出逢いにがっつく葵の姿なんて想像できない。
「……葵、たかが1個上のヨッシーにここまで言われてるけど?」
「言ってることは分かるけど何かムカつくからヨッシーの紹介は受けたくない」
「たかがとかムカつくとか失礼だな!」
「ははっ! まあそれは置いといて、ほんと気が向いたら大学祭来てよ。言ってくれれば入場チケットあげるから」
久坂さんがまとめる横でブツクサ言うヨッシーを尻目に、あたしと葵は了承の意味を込めて頷いた。
「じゃあ、もう遅いしそろそろ出るか。ヨッシー、メンバーに電話した?」
久坂さんとヨッシーが従業員用の出入り口のある厨房に向かうと、あたしと葵も後に続く。
「渉、桃井ってもう来てるんだよね? あたしは純と落ち合ってから買い出し行くけど、渉たちのが着くの早かったら勝手に家入ってていいから」
「うん。一応着く前に連絡入れるね」
ぞろぞろと4人で店の外へ出ると、僅かに生ぬるさが残る風が肌を撫でた。
店の裏側から駐車場を突っ切り、照明で明るく照らされた店の前まで歩けば、遠くを見ていた人影があたしに気付く。瞬間、自分の顔がほころぶのが分かった。
「――モモッ!」
すでに到着してることは連絡をもらって知っていたけれど、いざ姿を見つけると両脚はモモの元へ駆け出す。
「おつかれ」
「うん! お待たせっ」
笑顔を向けると、モモはあたしの手に持たれた物へ視線を落として「荷物多くない?」と口にした。