それでも君と、はじめての恋を


「矢吹、友達多そう」

「え。……や、普通だよ」


そう答えると、桃井くんは何も言わずに歩き出す。少し後ろを歩きながら、あたしと桃井くんは友達なのかなと考えていた。


……名前を覚えてくれて、嬉しい。


いつか、渉って呼ばれるくらい仲良くなれるかな。桃井くんのことも名前で呼べる日が、来るかな。


来るといいなぁ……。



「――あ。じゃあ、あたし、7組だからっ」


クラスが違うため左右に分かれるあたしと桃井くん。振り向いた桃井くんに、遠慮がちに右手を上げる。


「またね。さっきは、ありがとう」


腕に抱える飲み物を見せると、「ああ」と言う桃井くんは左手をポケットに突っ込んだ。


「今度は、負けないから」

「……え?」


驚くと、桃井くんも驚いた表情を浮かべたまま見つめ返してくる。


「いや……じゃ」


口元を手で覆って、逃げるように1組へ向かってしまった背中をポカンと見つめる。
< 47 / 490 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop