それでも君と、はじめての恋を
「矢吹、友達多そう」
「え。……や、普通だよ」
そう答えると、桃井くんは何も言わずに歩き出す。少し後ろを歩きながら、あたしと桃井くんは友達なのかなと考えていた。
……名前を覚えてくれて、嬉しい。
いつか、渉って呼ばれるくらい仲良くなれるかな。桃井くんのことも名前で呼べる日が、来るかな。
来るといいなぁ……。
「――あ。じゃあ、あたし、7組だからっ」
クラスが違うため左右に分かれるあたしと桃井くん。振り向いた桃井くんに、遠慮がちに右手を上げる。
「またね。さっきは、ありがとう」
腕に抱える飲み物を見せると、「ああ」と言う桃井くんは左手をポケットに突っ込んだ。
「今度は、負けないから」
「……え?」
驚くと、桃井くんも驚いた表情を浮かべたまま見つめ返してくる。
「いや……じゃ」
口元を手で覆って、逃げるように1組へ向かってしまった背中をポカンと見つめる。