それでも君と、はじめての恋を


「ありがとうございましたー」


コンビニ店員の声と同時に、モモがビニール袋を持って外へ出てきた。すぐさまベンチに座るあたしを見つけると、少し俯きがちに歩み寄って隣に腰掛ける。


「……ありがとう」


無言で差し出されたミルクティーを受け取れば、数秒遅れてプシュッというペットボトルのキャップを開ける音が隣から届く。


……言い慣れないことを言ったから、喉が乾いたのかな。


ちらりと視線を向けたのは隣のモモではなく、手が届きそうにないモモの右側に置かれたケーキの箱とあたしのバッグ。


「ねえモモ。あたしのバッグ取ってくれる?」


言う通りにしてくれたモモにお礼を言って、バッグの中身を確認しながらもうひとつお願いごとをした。


「あと、ケーキの箱も」

「……」

「うん。ここ置いて」


隣り合うモモとあたしの間を指差すと、ケーキの箱はすんなりとベンチに置かれる。場所を移動したのには、訳があった。


「それで、開けてみて」

「……ここで?」

「うん。ここで」


モモの顔も見ずに告げて、あたしはペットボトルのキャップを捻りミルクティーを口に含む。すると、座ったままでは開けずらいと思ったのか、モモがベンチから下り地面にしゃがみ込んだ。


背もたれに寄り掛かってその様子を見つめるあたしの瞳に、ホールケーキが乗る金色のトレーが引っ張り出された光景が映る。


「……葵と純に見られたくないから、今ここで食べてくれると有難いなー……なんて」


固まったモモが取り出したのは、紛れもなくバイト先で出されるフルーツタルト。だけどモモの瞳に映るのは、金色のトレーにちょこんと置かれた楕円型のチョコプレート。


ピンクのチョコペンで書かれたふたつのハートの間には、『祝6ヶ月』という文字。その下には『モモ大好き。これからもよろしくね。』というメッセージもある。


ヨッシーに頼んで準備してもらい、厨房で書かせてもらっていた。


「1ヵ月遅れだけど、先月は喧嘩してたから……お祝い出来なかったなって、思って……」


あ、やばい。恥ずかしくなってきた。


でも葵と純に見られたくないのは本当だから、チョコプレートだけ食べてくれると助かる……。


「えっと、とりあえず見てもらえたから、あたし食べるね……!」

「食べる」


伸ばし掛けた手を止めると、モモはチョコプレートを引っ掴んで口に挟み、ケーキを箱の中に戻した。


パキッ、とチョコプレートが割れる音に胃の底が捩じれたような感覚がする。
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