それでも君と、はじめての恋を
「もしかしなくてもぉ、桃井のモテ期が来たとでも思った? かっわいいなぁ~もう渉ってば!」
カーッと顔を赤くさせると、葵どころか森くんまで声を出して笑う。モモなんて頬杖をついた手で口を覆って、何とも言えない表情を浮かべていた。
「だ、だだ、だって……! モモが、女の先輩と話してるとこなんて、見たことなかったし……っ!」
うわぁ。うわあ! もう、ほんと恥ずかしい……!
「森も鬼だね。分かってて渉のこと連れてきたんでしょ」
「いやいや、人聞きの悪いこと言わないでよー。桃井が3年女子の間で噂になってるのはホントじゃん?」
「っあぁあああもういい! もうやめて! あたしの勘違いでいいから!」
両手で顔を覆うあたしが、今にも教室を飛び出していきたいほど羞恥心にまみれていることに気付いて!
「ほらぁ、桃井も何か言えば~? てか、状況分かってる?」
「……まあ、何となく」
何となくのレベルなら黙っててほしかった! もっと何か、そんな心配してたの?バカだな、とか……キャラじゃないけど! 照れ臭そうに言ってくれればあたしの心も少しは救われたっていうのに……!
「まあそれだけ愛されてるってことだよ。良かったね、桃井」
葵はフォローのつもりなんだろうけど、自分の勘違いがより浮き彫りになった気がして余計に恥ずかしくなった。
すると葵はあたしにお弁当を食べるように言って、席へ座らせてくれる。
あたしは葵の前の席。隣の列にはモモと純が前後に座って、森くんが変わらずモモの机に腰掛けていた。
「でもさー、桃井が今後モテる可能性はあるよね」
もうその話はいいのに確かに有り得ないとは言い切れなくて、黙ってお弁当のふたを開ける。
「だからぁ、大丈夫だってば~。桃井にモテ期なんてきませんっ!」
「アンタは自分より桃井がモテるのが嫌なだけでしょ」
「あ~あ。葵ってばそんなこと言っちゃう? 俺ちゃ~んと確信持って言ってるのにさぁ」
「確信って何?」
あたしとモモを差し置いて話を進める3人の声が途切れて、森くんの質問に純が答えないのが気になる。
絶対ニヤニヤしてるって分かってたのに、気になって純へ視線を向けるあたしは、バカだ。
目が合った純は、知りたいでしょ?教えてほしいでしょ?と顔に書いてあった。
「あのねぇ、この前俺と桃井がふたりで廊下歩いてた時にね? 女の先輩が3人話し掛けてきたんだよね~。もちろん俺にね」
「……」
「今度いつ遊べる?って話だったんだけどぉ、最後に、ひとりの可愛い先輩が……何だっけ。桃井くんもおいでよ~、だっけ? まぁとにかく桃井のことも誘ったわけ! それなのに桃井ったらさぁ……は~あ」
「もったいぶってないでさっさと言え」