それでも君と、はじめての恋を
「もう一個いい? 桃井の好きなタイプって、どんな子?」
「……考えたことない」
森くんとモモの会話を聞きながら、熱い顔を冷ますようにお茶を喉に流し込んだ。
モモの顔を見ないようにしていたあたしは、モモがどんな表情をしているのか分からない。隣の席に座っているのに、見れない。
「何かひとつくらいあるだろー。例えばでいいんだって」
「ない」
「えー……。まあ、桃井らしいっちゃらしいけど、何でまた」
「さぁ……渉以外興味な……」
言葉の途中で導かれるようにモモへ顔を向けると、目が合った。
モモが目を見開いたのは、きっとあたしが顔を赤くしてる意味が分かっていないから。
だけど徐々に、本当にゆっくり、モモの表情に羞恥心が滲んでいって、今更自分が何を言ったのか気付いたって遅いよ……と思った。
そろりとあたしから目を逸らしつつ、森くんという隠れ木を利用して机に肘をついたモモは、両手で顔まで隠しているようだった。
丸まった背中が、やっちまった感を惜しげもなく出している。
だからと言って、今のあたしがモモに「もう1回言って」とせがむことが出来るかと言えば答えはNOだった。
嬉しさよりも照れくささが勝ってしまい、もじもじとするあたしは髪を撫でつけたり、ネイルを見たり。
こんな空気は何回も味わったことがあるのに、いつまで経っても慣れる気がしなかった。
「あー……っと、あたしちょっとトイレ行ってくるかな」
「俺もちょっと、お邪魔かなー……」
葵と森くんが立ち上がると、純までもが大袈裟に溜め息をついて腰を上げる。
「も~何なのこのふたりぃ……見たくもないウブップルの掛け合い始めないでよ~」
3人はもう勝手にやってろと言いたげに席を離れて、取り残されたあたしとモモは沈黙。
本当いつまで経ってもこんなカップルで申し訳ないとは思うけど、ウブップルって何なの。それを言うならバカップルじゃないの。
完全にバカにされてる感が否めなくて微妙に腹立たしい……。そんなことよりも、この状況をどうにかしなくちゃいけないけれど。
「……モ、モモ」
とりあえず呼んでみるものの、返ってくるものは何ひとつない。
「あの、あたし的には嬉しいよ! みんなは、ほら、惚気を聞かされてる気分になったんだと思う!」
「……感想はいい」
「ほんとに! あたしは嬉しいよっ」
「いいって……嘘じゃないし」
気遣われてると思ってるのか、モモはそう言ってあたしに視線をよこした。気恥しさたっぷりで、少しだけ強がってるモモの瞳。