それでも君と、はじめての恋を


「雑用とかほんと無理。ていうか、どっちもバイトしてるんだけど」

「どうせ毎日じゃねえだろ! とにかく明日でもいいから、バイトないなら手伝え」

「えー……あたしは今日休みだけど……モモは?」

「言えば休める」

「じゃあ決定だな!」

「ちょっと待って! 何の雑用!?」


めんどくさいものだったら嫌だと思って聞くと、安部ちゃんは「はあ?」と教師らしからぬ発言をする。


「何って、しおり作りだよ。簡易バージョンだけど。ぺらっぺらの紙を三つ折りにする簡単なお仕事。もうすぐ修学旅行だろーが」


じゃあ自分でやればいいじゃん、と突っ込めなかったのは、すっかり忘れていた行事を思い出したから。


「修学旅行! え、もうそんな時期!?」

「林間学校と違って盛大にやるからなー。期待しとけよー……って、お前らまた部屋行き来したら次こそ反省文書かせるからな!」

そんなこともありましたネ。


思い出してちょっと恥ずかしくなっていると、モモが「どこで雑用?」と話を戻した。


「社会資料室。俺いないからってサボんなよ? じゃ、今日の放課後頼んだ!」


手を上げて教室をあとにする安部ちゃんを見送って、教室の壁に貼ってある手作り感満載の時間割を確認する。


今日しおりを作るってことは、明後日のロングホームルームは修学旅行の話になるのかな。


確か修学旅行は12月中旬だった気がするけど、意識してなかった分すごく楽しみになってきた。


「うわー楽しみ。写真いっぱい撮ろうねっ」

「……買い物行く?」

「――っ行く!」


誘いにパッと顔を明るくすると、モモは可笑しそうに瞳を細めた。


林間学校の時は必要なものを一緒に買いに行きたいって、あたしが誘ったなぁ……。行事にちゃっかり便乗して、デートしたいって思っただけなんだけど。


自然にモモから誘ってもらって、嬉しい。今日はいつもより、嬉しいことが多い。


雑用はめんどくさいけど、放課後を楽しみにしている自分がいた。


しおりを折りながら日程を確認して、このイベントは要らないとか、泊まるホテルは綺麗かなとか、自由時間はどこに行きたい?とか。他の生徒よりも少しだけ早く、リアルな修学旅行の話が出来るでしょ?


何気ない話が特別になって、明日が楽しみになって。モモと描く未来が早く現実になってほしいって、いつも思ってる。


夢みて、現実になって。全部が全部うまくいったわけじゃないけど、モモとの恋はそんな繰り返しだった。


――ねえモモ。


モモが次に描く未来は、どんなもの?


――――――
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