それでも君と、はじめての恋を
▽あたしだけの、ふたりだけの。
3階の隅っこにひっそりと存在する社会資料室。
北側にあるせいか電気を付けないと薄暗く、教室の半分ほどしかない資料室は物が散乱していて汚いとしか言いようがない。
邪魔なものを四方に避けただけの小さなテーブルには微妙な空間ができて、しおりを折るたび積まれた本がぐらぐらと不安定に揺れていた。
「……あたし才能あるな」
これっぽちも嬉しくないけど、地味な作業が向いてるのかもしれない。
2年生7クラス分のしおりを黙々と折り続けて2時間近く。最後の1枚を三つ折りにしたあたしは、7組の列にしおりを重ねた。
「終わったー!」
両腕を高く天井に向かって伸ばすと椅子にもたれた反動が伝わったのか、ついに本の山が崩れる。
バサバサッと床に落ちていった本を「あーあ」なんて思いながら見ていると、今度はドアの開く音がした。
「……」
背伸びをした状態で振り返ると、紙パックのジュースをふたつ持った男子生徒。
すぐに上げていた両腕を下ろせなかったのは、懐かしさが込み上げたから。
「……今の音、何」
スッと前に進んだ長い脚はものの数秒であたしの真横に辿り着く。
表情のない小さな顔にサラリと掛かるピンク色の髪と、左耳に3つ連なる赤いピアスを目立たせる短い茶色の髪。
今年はずっとアシメヘアでいるのかな……。
「……渉?」
名前を呼ばれてハッとしたあたしは慌てて腕を下げて、落ちた本を指差す。
「これ! 本が落ちただけだよ」
「ああ……ついに」
モモはあたしに紙パックのジュースを差し出して、受け取ると「終わったんだ」と感心するように言った。
「うん。モモがジュース買いに行ってくれたから、頑張った!」
「負けただけだろ」
「モモじゃんけん弱いよね」
喉が渇いたという話が出れば、どちらがジュースを買いに行くかじゃんけんをするのはいつものこと。
人数が多いとあたしは結構負ける確率が高いけど、モモとふたりだと勝つことが多い気がした。
……それにしても、あの時はまさかこんなことになるなんて思ってもみなかったなぁ。