それでも君と、はじめての恋を
「今さっきね、モモと初めて逢った時のこと思い出したの。あたしあの時も、背伸びしてたよね」
「ああ……だね」
「覚えてるの?」
「覚えてる」
くるりと反転したモモはテーブルに浅く腰掛けて、椅子に座るあたしを見下ろす。
モモの手に持たれているのはめずらしくストレートティーで、あたしが飲んでいるのはココアだった。
「あの時すごい緊張してたんだけど、気付いてた?」
「ビビられてるとは思った」
「あはは! しかも敬語だったもんね」
「ココア掛けられたしね」
「それは本当にごめん」
あたしが持つココアを指差したモモに謝ると、フッと可笑しそうな声が耳を掠める。
「懐かしいなぁー……」
あれから、9カ月? 早かったような、そうでもないような。だけど思い返すと、色んなことがあった。
ささいな日常に紛れる変わらないこと、初めてのこと。あたしの目がモモを追うようになってから、知らない感情が次々顔を出した。
最初はただの好奇心。友達になって、色んな表情が見たいって思った。噂よりも、目の前にいるモモが本当はどんな人なんだろうって、知りたくて。
見つめて、追いかけて、近付いたら、いつの間にか頭の中はモモでいっぱいになって、好きになってた。
「……桃井くん」
「……はい?」
一応返事をするモモにクスリと笑って、やっぱり懐かしさが胸の奥で滲む。
「あたし、桃井くんって呼んでたんだなぁと思って」
「……矢吹」
「うわー! そうだ、モモにも名字で呼ばれてたんだっ」
何だか気恥しくなって両手で頬を包み込んだあたしは、そのまま勢い良く椅子にもたれかかった。
「今思うと違和感」
「ね! 変だよねっ」
そう同意はしてみても、矢吹って呼ばれていた頃を思い出すと嫌ではないなって思う。
あの頃は名前で呼ばれたかったけど、名字呼びから始まっていたから、渉と呼ばれる今が余計に嬉しい。
確実に縮んだ距離が、目に見えるようで。