それでも君と、はじめての恋を




「渉、何か今日可愛い〜! 黒コンしてる?」

「ヘアスプレー何使ってんの? 巻き取れてない!」


4時間目の体育が終わって葵と教室に戻っていると、クラスメイトの女子が話しかけてくる。


あたしはみんなに囲まれながら、瞳を覗かれたり髪を触られながら歩き続ける。


「別にいつもと一緒じゃん!」

「マジで髪! 何使ってんの!」

「VO5に変えたんだよ。巻き落ちないから、買ってみれば?」


あんまり触られると巻きが緩くなるから、早めに答える。コンタクトも聞かれたから教えて、あたしはサイトのURLを友達の携帯に送った。


「相変わらずの質問攻め。お疲れ」


教室に着いてやっと解放されたあたしに、葵は労いの言葉を掛ける。


「本気でそう思ってる?」

「ちょっとだけね。ドンマイだよ」


化粧品の話をするのは嫌いじゃないからいいけどさ……。


小さく溜め息をついてから、椅子に座ってカバンからお弁当を取り出す。その時に一緒に出てしまったものを、慌ててカバンに押し戻した。


恐る恐る葵を見るけど、気付いてないみたい。
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