それでも君と、はじめての恋を




「葵っ。今日先に帰ってて!」


帰りのHRが終わって席を立った葵に告げると、眉をひそめられる。


「何でぇ〜? 今日は3人で遊ぼうって言ってたじゃ〜ん」


初めて聞いたわ!


純に冷たい視線を向けると、葵は「めずらしい。用事?」と聞いてくる。


「うん、ちょっと。勉強を……」

「え、まさか居残り? 渉、だっさぁ〜!」


ケタケタ笑う純にイラッとすると、葵が純の頭を思い切り叩いた。


「痛い〜! 何すんの!?」

「分かった。じゃあウチら帰るし。頑張って」

「え〜、俺らも残ろうよ〜。からかい……あぁ〜」


葵は純のカバンの紐を引っ張って、廊下へ向かう。まるで犬と飼い主みたいだなと思いながら、振り向いた葵に軽く手を上げた。


「じゃ、頑張れ」

「うん、また明日ね」


葵が微笑んだのを見て、あたしも笑って手を振る。ふたりの後ろ姿を見送ってから、席に座って鏡を取り出した。


……嘘ついたわけじゃないからいいよね、多分。


ふたりは桃井くんのこと、あんまり良く思ってないみたいだし……。


「どう言えば、伝わるかなぁ」


桃井くんは、いい人だってこと。いつかちゃんと分かってくれるかな。


ふぅ、とため息をついて鏡をカバンに戻して立ち上がった。
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