それでも君と、はじめての恋を
*
「葵っ。今日先に帰ってて!」
帰りのHRが終わって席を立った葵に告げると、眉をひそめられる。
「何でぇ〜? 今日は3人で遊ぼうって言ってたじゃ〜ん」
初めて聞いたわ!
純に冷たい視線を向けると、葵は「めずらしい。用事?」と聞いてくる。
「うん、ちょっと。勉強を……」
「え、まさか居残り? 渉、だっさぁ〜!」
ケタケタ笑う純にイラッとすると、葵が純の頭を思い切り叩いた。
「痛い〜! 何すんの!?」
「分かった。じゃあウチら帰るし。頑張って」
「え〜、俺らも残ろうよ〜。からかい……あぁ〜」
葵は純のカバンの紐を引っ張って、廊下へ向かう。まるで犬と飼い主みたいだなと思いながら、振り向いた葵に軽く手を上げた。
「じゃ、頑張れ」
「うん、また明日ね」
葵が微笑んだのを見て、あたしも笑って手を振る。ふたりの後ろ姿を見送ってから、席に座って鏡を取り出した。
……嘘ついたわけじゃないからいいよね、多分。
ふたりは桃井くんのこと、あんまり良く思ってないみたいだし……。
「どう言えば、伝わるかなぁ」
桃井くんは、いい人だってこと。いつかちゃんと分かってくれるかな。
ふぅ、とため息をついて鏡をカバンに戻して立ち上がった。