背徳の天使
 「剛史(ツヨシ)、先行ってるよ。」


 京子はそう言って、施設の廊下を走り抜け出口へ向かった。


 「ふん、ふぁふぁっは。(うん、わかった)」


 俺は洗面所でまだ歯磨きをしていた。


 施設のすぐ横には林があり、林の奥に岩に囲まれた小さな湖があった。


 夏休み、俺と京子はよくその湖に泳ぎに行った。


 遊泳禁止の場所なので、施設の先生達にはもちろん内緒で…






 俺は慌てて口をすすぎ、顔を洗った。





 木の間をぬってステップを踏むかのように軽快に小走りし、湖の岩場が木の隙間から見えてくると、大声でわめくような女の声が聞こえてきた。


 尋常でない叫び声は京子のものだった。





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