ヒーロー先生
そして無事高校に通学し始め1か月が立つが、僕には今までの義務教育時代と大差無いように見受けられた。確かに授業は中々サボれないし欠席もし辛いし何より中学には購買が無かった。だが根本的な勉強をする、という目的は変化しない。この新しい環境に特別な期待を抱いていたわけてば無いが、心の片隅に在った極小の何かは裏切られた気がした。まあこんなものだと直ぐに納得出来たけれど。

「阿藍」

シャーペンを片手に睡眠世界に居た僕は自分の名字の点呼により現世へと連れ戻された。ピザパン!と笑顔で元気良く言う友人にこの間ピザパンを賭けた腕相撲に負けたのを思い出す。悔しさと共に目の端に涙を浮かべ欠伸をしながら良いい加減廊下側最前列の席からおさらばしたいと刹那に考えた。この席は人通りが頻繁で実に落ち着かない。

購買に行くまでに、4限目の授業よりも睡眠に没頭していた僕の為に友人は教師の雑談を面白おかしく伝承してくれた。面白おかしい破けた長靴の行方不明事件を聞いたのは今日が初めてだった。
悔しながら購買での再戦でジャンケンにも負けた僕はピザパンとオレンジジュースを友人に奢り、自分はグラタンパンとリンゴジュースを購入しもう絶対腕相撲とジャンケン勝負はしないと心に違った。教室に戻る廊下をハイテンションな友人を見ている途中、僕は昼休みに職員室に来いと国語担当の教師から召集命令をいただいていたことを思い出した。友人は瞳を斜め左に移動させ一瞬だけ考えた末、「じゃ先教室行ってるわ」、と結論を出し僕達は一時別れた。

階段を上り始める友人を目で見送り職員室に足を運ぼうと一歩右足を踏み出したとき、前方に向かい合わせに直立している男女の生徒が居た。
これはもしや、と適当に思考を回転させ眺めていると、頬を桜ん坊の実のように紅潮させた女子生徒は「好きです」、と未告白経験者でもお馴染みの告白名台詞を呟いた。
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