虹の都へ
突然のことに、あたしは慌てて名刺入れを隠した。

「ノックくらいしなさいよ!」

声を荒げてしまったのは、動揺のせいだと思いたい。

「怒ることかよ…」

虹は呟くように言った後、呆れたように息を吐いた。

「だって、ノックなかったし…。

そのうえ勝手に入ってきてるし…」

結局のところ、あたしは何が言いたい?

何が言いたくて、何を怒ってるんだみたいな話じゃない。

「それで、何?」

不機嫌そうな顔をしている虹に、あたしは聞いた。

「夕飯」

サラリと、虹が言った。

要はご飯ができたってことなのね。

と言うか、
「わざわざ部屋にきて言いに行くこと?」
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