また恋をした、その時に。【完全版】
◯第一章◯
《リク》満月の夜のはじめまして。
———ドクン。ドクン。ドクン。
僕の胸の鼓動は止まらなくて。どんどん加速していく。
悪い事はしてないと、思う。
だけど、悪い事をしたような感覚になっているんだ。
誰かから追われてるみたいに、僕は辺りを見回した。
そして、大きくてゴツゴツとした桜の木に
もたれかけながら大きく息を吸うーーー。
いつもと違う匂い。土や草の匂いがしない。
見える景色も。
全く変わってしまった。
ーーー僕は本当に人間になってしまったんだ。
何度も何度も息を吸って、吐いて。
呼吸を整えた。
目を閉じてもう一回深呼吸をすると、ようやく落ち着いてきたんだ。
聞こえてくる
鈴虫の高い鳴き声はいつもと一緒。
僕は再び足を前に進めた。
この1番安心出来るこの場所から
外の世界へ出る為に。