【短編】ハチミツ王子
あ……。えーっと……。
あたしは腕を頭の後ろに回して、苦笑いした。
「ごめん。覚えてない、かなぁ……」
そう言うとミツは悲しそうにさらに眉を下げた。
「えぇ。ホントに覚えてないんですか?」
「うん。ごめん」
そんな事あったけぇ?
あたし全然思い出せないやー。
てか、一目惚れ!?
このあたしにハチミツ王子が一目惚れ!?
「てか。好きとか、冗談でしょ?」
そう言ってあたしはミツに笑いかける。
するとミツは眉間に皺を寄せてまた前屈みになった。
「冗談な訳ないじゃないですか!」
「え!?」
突然大きな声で怒鳴るミツ。
あたしはそんなミツより、周りの同じ車両に乗っている人達の視線が気になった。
すごい見てるじゃん!
「ミツ!ちょっと静かに!」
あたしは慌てて自分の口元に人差し指を立てた。