初恋
さくらは電車の中で、写真をみた。

被写体は公園の遊具とか、変わった形のオブジェとか、

はたまた日用品や人を写すこともあった。


トイカメラ独特の色あせがいつもの風景を違うものにしていた。


『あ。このりんご、意外に可愛く写ってる。このお母さん、昔のひとみたい。』

さくらにはこの確認作業が一番楽しかった。


次の瞬間、電車が揺れた拍子に膝の上に置いていた写真が床に落ちた。

『やっちゃった…。』

ため息をひとつついて
拾おうとした。

すると床に落ちたさっきのりんごの写真を誰かが拾い上げた。

あれは―――――――クドカンだ。



同じ車両にいたなんて気づかなかった。
あまりに予想外の対面に自分の顔が紅潮するのがわかった。

「…はい。」

「………ありがとう。」

写真を拾い、渡すという何気ない動作であったが、大人びたクドカンの仕草だった。


「変わった写真だね。
もう色あせてるけど。」

「う…うん。
そういうカメラで撮ってあるから。

つまんない写真でしょ。」

さくらはほとんど奪うようにりんごの写真を受け取った。


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