私の好きな彼女、私を愛した彼氏
「あきっぺ、トイレ行こ?」

3限と4限の間の10分休み。
私は机に顔を伏せて束の間の睡眠を満喫していた。
頭上から聞こえた声に顔を上げ声の主を確認する。



「……南か……。」


私は落胆した表情を隠さず呟いた。

「何だって…、誰だと思ったのよ。」
「別に…。ぇーっと、トイレだっけ??」


【あきっぺ】

その呼び名の時点で私の意中の人じゃないくらい解ってたんだけどね。


苦笑を浮かべるクラスメイトの南を他所に私は深いため息をついた。
すると背後から小さな笑い声が聞こえて来て―――。


…見つけた…。


私の意中の人物は廊下側に面した窓際の席で日誌を書いていた。
ペンを動かす手は止めないまま私を見て微笑んでいる。
【さぁ、どうする?】と言わないばかりの自信満々な表情に私は降参するしかなかった。


「……パス。次の数学の宿題忘れてた。」
「あらま、そりゃ悲惨な事で。……確かにトイレ行ってる暇なんて無いね。」
「そーいう事、ゴメンネ。」

ご愁傷様と私の肩を叩く南。
そんな私達のやりとりをアカネの顔をした【彼】はじっと見つめていた。
背中に突き刺さる視線に耐え切れなくなり南をトイレへと急かす。
そして足早に去っていった彼女と入れ替わるようにして………ハルは私の席にやってきたのだ。
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