私の好きな彼女、私を愛した彼氏
私は少しだけ声を荒げて静止を伝えた。
寒さで感覚の無くなった両足に全体重をかけ立ち止まり彼の手を強く握り返す。
すると…今度はあっさりと私の言葉に従ってくれた。


「悪いっ、もう10月なのに寒いよな。アンタが浴衣なんか着てるからつい季節忘れちまって…。」

浴衣なんかって…っ。
誰の為だと思ってんのよ………っ。


「浴衣着てきた私が悪いみたいな言い方しないでよね。……もう二度と着ないんだから。」


……今の可愛くないな。
何度同じ失敗すれば気が済むんだろう。
私は一瞬にして怒りが後悔に変わり上目使いで彼を盗み見た。

「……怒った?」
「いや。…俺のために浴衣着てくれたんだろ?寒いのに…ありがとうな。すっげー可愛いよ。」
「ハル…。」


悔しいけど完敗。
そんな笑顔見せられたら何も言えなくなっちゃうよ。
私達は公園近くのバス停のベンチに腰掛けた。
後5分も歩けば目的地に到着。
屋台の明かりと祭りの雑踏が聞こえて来るくらいの距離だった。

「後30分くらいか…。ぁ、そうだ鼻緒!ちょっと見せて。」

< 71 / 90 >

この作品をシェア

pagetop